サードエイジとは?日本における現状と課題についても解説

少子高齢化が進み労働者不足が深刻化する日本において、今後の活躍が期待されるのが高年齢のビジネスパーソン(=サードエイジ)です。高年齢者雇用安定法が施行されるなど、サードエイジ世代がこれまで以上に力を尽くす環境が整いつつあります。

サードエイジ世代に社内で活躍してもらうためには、この世代に関する理解が必要です。この記事ではサードエイジの定義から、日本のサードエイジ世代を取り巻く現状と課題、サードエイジ世代に活躍してもらうためのポイントを解説していきます。

サードエイジとは

サードエイジ

「サードエイジ」とは、歴史人口学者であるピーター・ラスレット氏が提唱した、人生における4段階区分のうち3番目の段階をさす言葉です。4つの区分のなかでも、サードエイジは人生における達成・完成期、最盛期にあたります。
 
サードエイジを含め、ラスレット氏が唱える人生の4段階区分とは以下の通りです。
 
【ピーター・ラスレット氏が提唱した人生における4段階区分】

名称
概要
ファーストエイジ
 親に依存し教育を受けながら社会性を学ぶ未成熟な人生の区分。社会にでる前の期間を指す。
セカンドエイジ
 親から自立し、社会的な責任をもち成熟にいたる人生の区分。いわゆる現役世代と呼ばれる期間を指す。
サードエイジ
 成熟期から個人の達成・完成期・最盛期にあたる人生の区分。現役を退いた直後の期間を指す。
フォースエイジ
 最終的な依存・衰弱・死に至る人生の区分。人生の最盛期を過ぎ、老化による衰えが始まり人生の終末までに至る期間を指す。

サードエイジに該当する具体的な年齢とは?

日本ではサードエイジの始まりを、定年と関連付け論じられることが多くなっています。ラスレット氏の定義によると、「現役を退いた直後の期間」とあり、これまでの日本では、定年を迎えることで現役を引退するのが一般的だったためと言えます。
 
ラスレット氏は、人生の4段階区分と年齢の対応関係はないと繰り返し述べています。特に人々の生活様式が多様化する現代では、年齢やライフイベントで人の一生を一律に説明することは困難です。
 
たとえば、高校を卒業した時点で親から独立し働きだす人もいれば、大学や大学院を卒業してはじめて就職する人もいます。人生100年時代の現代日本では、定年を過ぎても現役を引退せず働き続けるビジネスパーソンも少なくありません。
 
サードエイジ含め4つの区分が具体的にどのくらいの年齢をさすかは、環境・時代背景などさまざまな要素を考慮して考えるべきでしょう。一概に「サードエイジの始まり=定年後」とは言えないのです。

海外の研究や本記事におけるサードエイジの定義

実際、海外の研究では概ね50歳から75歳の間を指して、人生の完成期であるとする言説が多いようです。日本で50代・60代前半といえば、まだ定年を迎えていません。現役を退くのでなく、30代~40代の働き盛りを過ぎて第一線を退く方が多くなる世代と言えます。また、後述する「役職定年制(役職ごとに定年を設ける制度)」によって管理職から外れて専門職で処遇されるビジネスパーソンも多い世代です。ハイパーアイランド及びこの記事でも、海外の研究に合わせて50歳から75歳くらいの期間をサードエイジ世代と定義し、解説していきます。

映画『マイ・インターン』に学ぶ、サードエイジ世代

本項では、映画『マイ・インターン』を例に挙げ、サードエイジのキャリアやリスキリングの重要性について考えてみましょう。『マイ・インターン』は、若くして成功した女性社長が、彼女のアシスタントに採用された70歳男性との交流を通し成長していく物語です。
 
ファッションサイト運営会社の社長であるジュールズは一見華やかですが、人生最大の試練が待ち構えています。そんな彼女のもとへ、シニア・インターンとして採用された70歳の男性新人である主人公ベン・ウィテカーがやってきました。
 
最初は社内で浮いていたベンですが、温厚な人柄で徐々に周囲と打ち解け信頼関係を築きます。試練に立ち向かうジュールズに対しても、ベンは自らの豊富な人生経験にもとづいていくつかのアドバイスをし、彼女を助けるのです。

経験の価値

主人公のベン・ウィテカーは、長年の仕事経験・人生経験により培われた知恵によって、若い女性社長ジュールズを何度も助けます。サードエイジ世代の豊かな経験は、活かし方次第で新しい環境や世代でも役立つことが少なくありません。サードエイジ世代は自分の経験を新しい世代に伝えることで、互いに成長する機会を創出することができます。

学び続ける姿勢

映画『マイ・インターン』では、主人公のベンが新しい技術や現代の職場文化に適応する様子が描かれています。サードエイジ世代が古い文化に固執し、新しい技術や文化を否定することしかしなければ、せっかくの経験を次代に伝えるのは難しいでしょう。サードエイジ以後も学び続け柔軟に適応することによって、年齢に関わらずキャリアを豊かにすることができるのです。

働きがいと人生の充実

主人公のベンは、退職後も働くことによって新しい目的と充実を見出しました。サードエイジ世代にとって、仕事は単に収入を得る手段ではなく、自己実現や社会貢献をするための手段となり得るのです。

日本のサードエイジ世代をとりまく現状と課題


日本のサードエイジ世代をとりまく現状には、いくつかの課題があるのは否めません。この項では、世界に先駆け超高齢化社会を迎えている日本において、サードエイジをとりまく現状と課題を解説します。

役職定年制度

役職定年制度とは、文字通り役職に定年を設け一定の年齢で役職を退くことをルール化した制度のことです。本制度は課長や部長などの管理職についている社員が対象で、対象社員の能力に関わらず、年齢の基準により一律で役職を離れさせます。
役職定年制度は、若手世代に活躍の場を提供し組織を活性化すると同時に、シニア社員へのキャリアシフトを促す目的があります。しかし、経験豊かな管理職が能力に衰えがないにも関わらず役職を退くことにより、企業はその人材の知識やリーダーシップを損失することになり、これが企業のパフォーマンスに大きく影響を及ぼす可能性があります。
 
また一定の年齢でキャリアが絶たれることが制度化されると、従業員はキャリアによる成長や発展を制限されていると感じることがあります。その結果、従業員のモチベーションを低下させてしまう可能性があります。このようなデメリットを踏まえ、NECのように役職定年制度を廃止した企業の例も存在します。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)

高年齢者雇用安定法は、働く意欲のある高齢者の雇用機会を確保し、そのための環境整備を目指す法律です。急速な少子高齢化に対応し、高齢者を社会経済の活力源として長く活躍させることが目的です。
この法律により、高齢者の雇用を安定させるため、以下の義務が企業に課されます。
 
•【定年制の延長または撤廃】
高齢者がより長く働けるよう、定年を70歳まで引き上げるか、定年制を撤廃すること。
 
•【継続雇用制度の導入】
定年後も働き続けたい従業員が、再雇用や雇用延長を通じて継続して就労できるようにするための制度を設けること。
 
•【高年齢者の雇用管理改善】  
高年齢者の能力を正しく評価し活用するため、適正な配置、教育訓練の提供、健康管理の強化など、雇用管理方法の見直しが必要。
 
•【雇用機会の提供】  
高年齢者が新たに職を求める際に、適切な雇用機会を提供する措置を講じること。
これらの措置は、高年齢者が企業でより長く働き続けるための支援を意味します。一方で、企業にとってはコスト増加や生産性の低下などの課題も伴います。そのため、高年齢者を戦力として適切に活用することが、企業に求められています。

サードエイジ世代にとって大切なこと

これらの背景を踏まえると、サードエイジ世代は、これまで以上に長くかつ生産的に活躍することが求められます。サードエイジ世代が企業で長く活躍し続けるためには、以下が必要になります。
 
【スキルと知識のアップデート】
技術や業界のトレンドが常に変化する中、現役として活躍を続けるためには、スキルの更新や新しい知識の習得が求められます。
 
【キャリアプランの再考】
企業で長く働き続けたい場合、どのような形でどんな役割で働き続けたいか検討し、計画的にキャリアをデザインすることが重要です。

企業にとって大切なこと

一方で企業が高年齢者を適切に活用し、生産性の向上を目指すためには以下が必要です。
 
【多世代共生の職場環境】
若手からサードエイジ世代まで互いの強みを活かし、尊重・協力しあいながら働ける環境整備が求められます。
 
【ライフステージに応じたキャリアサポート】
従業員のキャリアを平準的に管理するのでなく、個々のライフステージや目標に合わせ柔軟にサポートすることが求められます。
 
【継続教育とスキル開発の機会提供】
技術が絶え間なく進化しつづけるなかで、若手・サードエイジ問わず学習を継続することが求められます。なかでもサードエイジ世代に対しては、新しい技術・方法論に適応できるようサポートするための研修プログラムの提供が有効です。

まとめ

サードエイジとは、成熟期を過ぎ、個人の達成・完成期・最盛期にあたる人生の区分です。激しいスピードで少子高齢化が進む日本では、サードエイジ世代の活躍が不可欠となっています。第一線を若い世代に譲りつつも、豊富な経験を誇るサードエイジ世代の知恵やリーダーシップは、企業にとっては重要な財産です。スキルや知識のアップデートは必要ですが、ポイントをおさえ役割を担ってもらうことで、サードエイジ世代は企業を支え続けることでしょう。
 

RECOMMENDED