【後編】北欧スウェーデンのデザイン・イノベーションカンパニーに聞く、デザインテクノロジストの仕事と今後の需要

北欧スウェーデンに本社を置くデザイン・イノベーションカンパニーTOPP(トップ)。彼らはサムスンのデザインパートナーとしてウェアラブル製品の開発に携わり、他にもIoT、モバイルアプリ、モビリティシステムなどさまざまなプロダクト・サービスを世に送り出しています。その開発のほとんどに彼らオリジナルのプロトタイプ開発ツールNoodl(ヌードル)を使用しています。これはデザイナーとエンジニアとのコミュニケーションとしてはもちろん、クライアントとの関係性や開発フローも速くなるというスグレモノです。

 

そんなTOPPでデザインテクノロジストとして活躍しているマティアス氏にインタビューを行い、【前編】ではデザインテクノロジストとは何かなどについてご紹介しました。
今回の【後編】では、デザインテクノロジストに求められる素質、クライアントとの関係性、今後の日本展開についてご紹介します。

MATHIAS LEWIN(TOPP)
エンジニアとしてのバックグラウンドを持つデザインテクノロジスト。
現在はテクノロジーリードとしてプロジェクトを牽引するとともに、ハッカソンの開催にも力を注ぐ。

 

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デザインテクノロジストに条件なし

ーデザインテクノロジストに必要なマインドや素質などは何だと思いますか?

 

マティアス:デザインテクノロジストの候補となりうるのは、経験すること自体が好きな人ではないかと思います。TOPPにいるデザインテクノロジストはエンジニアとしてのバックグラウンドを持つ人が多いのですが、それが絶対条件だと捉えて型にはめる必要はありません。
ハードコアなコーダーになる必要も、デザイナーである必要もありませんが、いろいろな方法で表現できるとよいので、一定のデザイン力はあるといいでしょう。専門家になる必要はないと思います。
とにかくいろいろなことに挑戦してみることです。

 

典型的なエンジニアと比べてデザインテクノロジストの違うところは“考えて、経験し、構築する。そして、それらが完了したとき次に移る”ということです。
TOPPではプロトタイプを“成果物”ではなく、“制作した経験”と捉えるように敢えてしています。経験を中心に考えることで、プロトタイプの存在価値を少し上げているのです。
そうすることで、古いものを維持するよりも次のテーマに取り組むことができるようになりますし、自由な発想をする癖がつくことで高いクオリティまで上げることができます。

提供するのはブレイクスルー

ーTOPPに訪ねて来るクライアントはどういったことを求めていると思いますか?

 

マティアス:クライアントはデザイナーやテクノロジストの腕を求めてきてるわけではなくて、私たちがこれまで行ってきたことを求めてきているのです。つまり、プロジェクトに対する情熱や人、スキル、メソッドなどです。それぞれの要素がどれだけ強くても、単体だけでは素晴らしいプロジェクトを完遂できません。素晴らしい人、素晴らしいスキル、素晴らしいメソッドすべてのコンビネーションこそがTOPPに求められていることなんだと思います。
これまでに数々の鮮烈なプロジェクトに携わってきましたが、私が好きな瞬間は、クライアントが「なぜ、これを今までやってこなかったのだろう」「なぜ、このメソッドを使わなかったのだろう」「なぜ、問題に対してこのアプローチ方法で取り組んでこなかったのだろう」というリアクションをした時です。
私にとってこの3つは、クライアントのニーズにすべて応えられたという指標でもあります。

 

もっと大きな会社で働いていた時代は、興味深いチャレンジが時々ある程度でした。
今は面白いプロジェクトがほとんどなので退屈することはありません。TOPPを訪れるクライアントは皆さん興味深い課題や疑問を抱いているので、我々はクライアントと同じ目線で並走していきます。

良くも悪くも日本は素晴らしい


ーこれまでに日本でワークショップやハッカソンなどのイベントを開催してきましたが、日本のデザイナーやエンジニアをどう思いますか?

 

マティアス:技術は間違いなく素晴らしいです。参加者はさまざまなバックグラウンドを持っているので、それぞれの視点があってよかったです。
デザイナーは本当に素晴らしいデザインをアウトプットしていました。紙でもスクリーンでも3Dでも、ワークショップ中に出たアウトプットは素晴らしいものばかりでした。ここまで問題をしっかりと理解し、ニュアンスをうまく3Dで表現するハッカソンは見たことがありません。
新しいものを学習することに対する意欲もあるので、そこに私もインスパイアされています。

 

一方で、文化的な面ではチャレンジがあると感じました。参加者の皆さんに「どうぞ説明の途中でも割り込んできてください」と言いましたが、人が話をしている最中に割り込んで話すということをした参加者はいませんでした。
しかし、参加者の方たちに我々の話をすべて持ち帰り最大限活用して欲しかったので、要所要所で割り込んで来られるように設計しました。
主催者側はどうしてもこれがベストだと思い込んでしまうので、誰かが「こっちの方法でやるべきでしょ!」と言ってくれたら「よしそっちにしよう」ということができたと思います。チャレンジするきっかけを見つけてくれる人が常にいてくれたら、とてもありがたいですね。もちろん、日本人の礼儀正しさはいいことです。

日本企業の刺激になるNoodl活用法

ー今後の日本での活動についてはどう考えていますか?

 

マティアス:これまで開催してきたようなハッカソンやワークショップのようなスピリットを持ってプロジェクトをもっとやりたいですね。デザインとエンジニアの中間にいるような人たちと数多く関わり合いたいですし、デザイナーとエンジニアの両方がいる現在のTDSとのチームでプロジェクトをもっと行っていきたいです。それは必ずクライアントのためになると思っています。
あとは、ハッカソンなどのオープンイベントが好きなので開催していきたいです。
Noodlも次回のアップデートで、より高速でのプロジェクト遂行が可能になります。模索/探索フェーズに予算をかけすぎずにできるので、特に日本企業の刺激になるのではないかと思っています。
Noodlのいいところはコミュニティをつくれるというところですが、言語が大事な要素となるのでこれからも言語的ニーズに応えていけるように向き合い続けたいですね。

常に挑戦する飽くなき探究心

ー最後に、これからデザインテクノロジストを目指す方たちへのコメントをお願いします。

 

マティアス:常にトライ。実験にどんなツールやテクニックを使うかは重要ではなくて、目標達成や問題解決のために何にトライしたかが重要です。とにかく何かつくることにトライしてみてください。きっと今までの自分の理解を超えて、成長できると思います。

 

ーそれは“プロトタイピング”に繋がっていますね。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

“Design Technologist”と英語でGoogle検索すると約43,500,000件ヒットします。一方、“デザインテクノロジスト”とカタカナで検索すると約2,970,000件。約1桁違うこの情報量の差が、日本においてまだこの職種が浸透していないことを表しているのだと思いました。
定義はそれぞれあると思いますが、今後こういった複合的なスキルを持つ職種の需要は高まっていくと感じています。
しかしながら職種や肩書きに囚われるのではなく、“自分の経験や知識を持ってプロジェクトに価値を与える”ということが大切であること。そのために、学ぶことやチャレンジすることはいくつになっても必要であるということを実感しました。

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