【前編】北欧スウェーデンのデザイン・イノベーションカンパニーに聞く、デザインテクノロジストの仕事と今後の需要

北欧スウェーデンに本社を置くデザイン・イノベーションカンパニーTOPP(トップ)。彼らはサムスンのデザインパートナーとしてウェアラブル製品の開発に携わり、他にもIoT、モバイルアプリ、モビリティシステムなどさまざまなプロダクト・サービスを世に送り出しています。その開発のほとんどに彼らオリジナルのプロトタイプ開発ツールNoodl(ヌードル)を使用しています。これはデザイナーとエンジニアとのコミュニケーションとしてはもちろん、クライアントとの関係性や開発フローも速くなるというスグレモノです。

 

Noodlを駆使してイノベーションを起こしつづけているTOPPでデザインテクノロジストとして活躍しているマティアス氏に、インタビューしました。
前編ではデザインテクノロジストとは何か、マティアス氏がデザインテクノロジストを志したきっかけ、さらにデザインテクノロジストとしてどのようにプロジェクトに関わっているのかをご紹介します。

MATHIAS LEWIN(TOPP)
エンジニアとしてのバックグラウンドを持つデザインテクノロジスト。
現在はテクノロジーリードとしてプロジェクトを牽引するとともに、ハッカソンの開催にも力を注ぐ。

 

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TOPP本社があるマルメは今アツいエリア

ー今回はお時間をいただきありがとうございます。さっそくいくつか質問をさせていただきたいと思います。TOPPはスウェーデンのマルメという都市に本社がありますが、マルメはスウェーデン第3の都市ですよね?

 

マティアス:2番目の都市だと言ったらヨーデホリ*1 に怒られそうなので3番目で大丈夫です(笑)。マルメはストックホルムやヨーデホリといった大きな都市とは全然雰囲気が違います。最近は多くのスタートアップが誕生していて、ゲーム会社もあります。そのため、ゲーム業界と仕事をする機会が最近は大幅に増えました。
*1 ヨーデホリ:スウェーデン南東に位置する港湾都市

 

ーKing*2などがありますよね?

 

マティアス:そう、KingやUbisoft*3があります。Ubisoftが一体のエリアを占めていますね。TOPPがマルメにある理由の1つです(笑)。マルメは経済と新しい可能性が強く結ばれている都市だと思います。

*2 King:キャンディークラッシュで有名なスウェーデンのゲームメーカー。
*3 Ubisoft:フランスに本社を置くゲームの開発・販売会社。ヒット作であるディビジョンはマルメにあるマッシブエンタテイメントが開発を行っている。

テクノロジーの探求と価値を高める役割

ーデザインテクノロジストと聞くと“デザイン”と“エンジニア”両方のスキルを持つ人というイメージがあります。デザインテクノロジストとはどんな職業でしょうか?

 

マティアス:一言で言うと、「デザインとテクノロジーの活用方法を理解している人」または「デザインやアイデアをタンジブル(目に見える、触ることができる)なプロトタイプで表現するのを助ける人」だと思います。
デザインテクノロジストはオープンエンド(自由)な役割なので、それぞれの個性やバックグラウンドも違うと思います。いろいろなものがミックスされている職業ですね。
デザイナーの側でアイデアを表現するだけでなく、新しいテクノロジーの可能性を模索してプロジェクトのクオリティや価値を高めることがデザインテクノロジストとしての私の役割だと思っています。

 

ープロジェクト進行の潤滑油としてコミュニケーションミスを防ぐブリッジ役になっているのですね。

 

マティアス:TOPPには他にもビジュアルデザイナーやインタラクションデザイナー、リサーチャーなどがいますが、プロジェクトの1日目から全員で同時に動き始めます。でも、その段階で“デザインテクノロジスト”としてプロジェクトに関わることはありません。
アイディエーションプロセス(コンセプトを考える段階)では自分がこれまでに得たスキルや知識をアイデアに生かせますし、アイデアが深まってきてワークプロセス(実際に手を動かす段階)になった時も同様です。
“デザインテクノロジスト”という職種ベースでプロジェクトに関わるのではなく、プロジェクトベースでそれぞれの知識や経験を持ち寄り、適切なアプローチを取れるようになります。

 

ー面白いですね。それぞれが自律して働いており、プロジェクトの遂行を通して彼らの役割が変化していくということですね。

開発からスタートしたキャリア

ーデザインテクノロジストになろうと思ったキッカケは何ですか?

 

マティアス:単純にチャンスがあったということもありますが、理由はいくつかあります。
私のキャリアを振り返ってみると、かなり昔のことですがOSのソフトウェア開発からスタートしました。そのためにアセンブリ言語などを学んでコンサルタントやソフトウェア開発者として多くの時間を費やしてきました。
それはそれで面白かったのですが、サイロ化していて非常に厄介で遅いプロセスでした。仕様なども決められていたので大変でしたね。
でも思い返してみると、表現の自由などはなかったのですが、ソフトウェア開発を通してUIデザインを手がけた始まりでもありました。
そこで、TOPPに入る前にTAT*4と仕事をしながら、UIデザインにおいてハイレベルなツールをどのように使うことができるかということを追求していきました。

 

ボタンをどのようなサイズで実装すればよいのかだけではなく、どのような機能とデザインを組み合わせて実装すればよいかなどを学べましたし、コードやXMLなどを使ってデザイナーと一緒に働けるよい機会でした。
ある意味、すでに“デザインテクノロジスト”として働いていたように感じますが、TOPPが持つNoodlのようにプログラミングスキルを必要としないインターフェースのツールというレベルまでは達しませんでした。
しかし、デザイナーやマネージャー、プロダクトオーナーなどと一緒に仕事をするようになって、彼らの言語(言葉)をすべて理解して表現することが必要だと気づいたことでデザインテクノロジストとして成長できたと思います。

*4 TAT:“BlackBerry Sweden”の名で知られているモバイルのUI/UX、OS開発会社。

デザインテクノロジストとしてのプロジェクトとの関わり

ー普段はどのようなチーム構成でどんなことをしているのでしょうか?

 

マティアス:いろいろある中の1つとして、プロダクトの価値を見出す手助けをしています。上流工程の仕事をする傾向にあるので、アイコンやデータなどを納品するというような仕事はしません。それよりもプロダクトそのものの構造やコンセプトの構築が私たちの仕事です。
ビジュアルデザイナー、UXデザイナーはもちろんですが、リサーチャーやデザインテクノロジストも常にプロジェクトに入れるようにしていろいろなことに対応できる体制を整えています。

クライアントがデザインに問題を感じている時、実はデザイン以外の問題と深く関係しているということが少なくありません。そういった場合に、デザインの問題をアーチ状にカバーできれば根本の問題を解決でき、プロジェクトを大きく前進させることができます。
ただ単に、クライアントから求められたことに対してだけ返すよりは、いい意味で期待を裏切り、チームで解決できそうなチャレンジをクライアントに対して行う方がよいと思っています。クライアントの成功こそが私たちのゴールです。

 

ークライアントに “WOW!” な体験を提供したいのですね。

 

マティアス:そうです。期待以上の仕事をすることを常に心がけたいですね。時にはビジュアル先行のものや、感情に直接働きかけるようなもの、クライアントが想像も期待もしていなかったような成果物を提供することもあります。プロトタイプがその1つです。
クライアントからは成果物として「pdfだけください」と言われることもあります。それもいいのですが、ここでよく直面するのが“プロダクトの精度の高さを表現することの難しさ”です。プロトタイプはコンセプトに、タッチ(触れて)、フィール(感じて)、トライ(試す)ことができます。プロトタイプから得られるインサイトはどんなに優れた静的な成果物よりも優れているので、リクエストされなくてもプロトタイプを渡すことは多いです。

 

ーそれがプロトタイプの力ですね。

 

マティアス:そうです。「これがこう動いてるのを想像してください」と言っていろいろなボードや画面を見せて回るよりも、「どうぞ試して見てください」と実物を見せて製品の見た目や感触、製品価値についてのコミュニケーションをとることがベストです。

 

またTOPPはself-contained(自己充実型)のチーム構成をとっています。基本的にチーム内で起こったことはクライアントと一緒になりチームで決めていきます。
そうするとマネジメントの意見などを通さないのでウォーターフォール型にならず、新しい可能性を見出すことができます。

 

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前編の最後に

デザイナーとエンジニアは時として水と油のような関係になる場合があります。この2つの肩書きを持ち合わせている人はどんなことをしているのか。私自身も気になるトピックでした。
今回のインタビューで印象的だったのは“職種ベースでプロジェクトに関わるのではない”ということでした。それぞれバックグラウンドが異なる人たちが関わりプロジェクトの価値を高めていく。プロジェクトには与えられた肩書きや職種でアサインされることが多いですが、それぞれバックグラウンドが違うのはどの組織も一緒なので、そういった意味ではすぐ取り入れられるのではないかと思いました。
次回更新の後編では、デザインテクノロジストに求められる素質や日本のデザイナー・エンジニアについて意見を伺ったのでご紹介したいと思います。

 

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