イベントレポート Wicked problemを解決するデザインの力

デザイン経営宣言が公表されて早くも1年が経過しようとしています。デザインは単純に物をつくるものではなくなり、デザイナー以外もビジネスをデザインする時代へシフトしています。

経営者やマネジメントが直面している課題はどんなものなのか。

デザイナーはその問題に対してどう対応していけばよいのか。

これらをテーマに去る2月7日、「Innovation Space DEJIMA」にて基調講演イベントを開催しました。

登壇者は北欧スウェーデンに本社を置くデザイン・イノベーションカンパニー「TOPP(トップ)」のCo-founderであるジェームス氏。ブラックベリーなどのモバイル領域に長年携わったのち、2013年にTOPPを設立しました。自身はデザイナーとしてのバックグラウンドを持ち、現在は経営者としてビジネスデベロップメントに力を注いでいます。

イベントの前半はジェームス氏による基調講演、後半はパネルディスカッションという2部構成で行われました。

今回は前半の基調講演の内容をお届けします。

Wicked Problemには種類がある

今回のテーマである“Wicked Problem”。“wicked”とは「邪悪な、ひどく悪い」という意味を持つ英単語ですが、“Wicked Problem”は日本語にするとどういう意味なのでしょうか。調べると大阪ガス行動観察研究所のサイトに下記のように定義されています。


引用:http://og.kansatsu.jp/column/detail/23

 

続きには3種類の解説が分かりやすく書かれていますので、読んでいただくとより理解が深まると思います。

今回の講演では少しブレイクダウンし、ビジネスにおいてそれらの問題は具体的にどういったものか、またそれらに対応するデザインの力やマインドセットについて語られました。


引用:ジェームス氏スライド

 時代の変化が生んだ“Wicked Problem”


引用:ジェームス氏スライド

 

上図はテクノロジーやトレンドの発展を表した曲線です。カーブの急上昇は非常に力があることを示し、やがて落ち着いていく様を表しています。例えばモバイルやPCなど、デザインの力が市場を加速させていき、デザイナーにとってもユーザーと関わりがある価値のあるフェーズです。成熟するにつれて“よいUI / UXデザイン”という基準が確立され、今日成功しているサービスやプロダクトの前提条件となりました。

 

しかし、現在はデータや複数デバイス間のインタラクションなどを扱うマテリアルに変化が生じ、今までのデザインの力だけでは成功できなくなりました。


引用:ジェームス氏スライド

 

ジェームス氏はこのカーブの上昇を加速させ、より複雑にしている要因は3つあると定義しています。

1. 第四次産業革命

過去の産業革命で起きた機械化や量産化、自動化を1つに集約する動きがあること、スピードが速くインパクトがあることが特徴。

2. プラットフォームをベースとしたビジネスモデル

UberやAirbnbのようにプロダクトではなくプラットフォームをベースとしたビジネスモデルが登場。こういった新しいサービスには新しいテクノロジーが重要であり、AIやマシーンラーニングも今日ではサービスのベースとなっている。

3. アシンメトリーコンペティション

価値創出の方法を変える新しいビジネスアプローチ。例えば、クリーニング店がクリーニング業務から得たデータをEコマースへ展開したりするように、既存のビジネスモデルとは違うアプローチでマネタイズを行うようになっている。

以上のように時代の変化に伴った新しいビジネスの登場により、さらに複雑化しWicked Problemは生まれるのです。

デザイナーも複雑化

こうして古い手法がどんどんコモディティ化していく中、デザイナーはどのようになっていけばよいのでしょうか。

デザインの歴史を振り返ってみても、複雑化へとたどっています。


引用:ジェームス氏スライド

 

そして求められる要求もどんどん高くなりました。


引用:ジェームス氏スライド

 

扱う素材が伝統的なものからデータやシステム、サービスにまで及ぶようになりましたが、これらは当然目には見えません。しかしデザイナーはこういったものにも対応し、人々の「こうしたい!」という気持ちを具現化して目に見えるものにしていく必要があります。

そして扱う素材の変化に伴うツールの変化にも、当然対応する必要があります。

 

参照記事:TOPP流 プロトタイプドリブンでデザインを進める方法

まだ定義はないチャンスのステージ

現在、私たちはアルゴリズムなどの計算によってデザインをしていくステージにいます。それは個人の感情に繋がるような、パーソナライズされたものにシフトしてきています。

しかし、これはS字曲線でいうとまだ上昇しきっていない、よいデザインの定義がないステージであるとジェームス氏は語りました。

つまり、デザイナーにとってはチャンスのステージにいる、と私は考えます。

 

最後に、ジェームス氏から“Wicked Problem”に対応する4つのヒントについて語られた内容をご紹介します。

 

1.  Ask designers to solve wicked problems.

“Wicked Problem”はデザインの力で解決できる時代です。まずは、デザイナーにプロジェクトメンバーの一員になってくれるよう、頼みましょう。

 

2. Challenge expectations of design results.

ビジネスモデルまで考えてデザインしなければならない時代です。デザインの結果がどうなるか予測してみてください。

 

3. Co-collaborate on design processes.

よいプロジェクトとはエンジニアやデザイナーが個々に作業するのではなく、みんなで協力するものです。デザイナー以外であってもデザインプロセスにおいては大切なキーパーソンです。

 

4. Act as is all the easy problems have been solved.

簡単な問題はすでに解決されたと思ってください。そして組織や社会に価値を還元できるような、より大きな問題にチャレンジしてください。

 

現在、自分自身がどういった課題に直面しているか意識してみてください。全てが“Wicked Problem”ではないと思います。でももしそれが“Wicked Problem”であったら、それは価値がある課題です。

今こそ前例を作る絶好のチャンス

今回この記事を書くにあたりジェームス氏が使用していたスライドを振り返ったところ、タイトルを見て手が止まりました。

“All the easy problems have been solved.(全ての簡単な問題は解決済み)”

彼は最後の言葉をスライドのタイトルにしていました。


時代の変化が生み出した“Wicked Problem”。この講演の後、課題の複雑さに直面してもインパクトを生み出すチャンスと捉え、価値を創造できるよう、学び、そして進化していくことは避けられないのだと感じました。

 

後半のパネルディスカッションは、ジェームス氏の基調講演を受け、TDS、TOPP、GOBの3社で行いました。

その様子は下記に詳しく記載されていますので、ご覧ください。

 

参照記事:日欧のデザインカンパニー経営陣が語る「デザインが開発をリードする未来」:TDS×TOPP×GOB

 

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