海外デザインファーム紹介#3 Hyper Island (Stockholm, Sweden)

dd postsを運営するTDSは2016年より北米・欧州を中心に海外視察を重ね、現在は20社を超えるデザインファームとネットワークを構築しています。そのうちの数社とはパートナーシップ契約を結び、双方の得意分野で協業しながら現在、ビジネスに取り組んでいます。
今回はその1社である、ユニークなデジタル・イノベーション教育と、ビジネスコンサルティングで知られるスウェーデンの「Hyper Island(ハイパーアイランド)」をご紹介します。

北欧発「デジタル版ハーバード大学」

Hyper Islandは1995年にスウェーデンで設立された、社会人向けのデジタル・イノベーション・スクールです。
開校以来、デジタルテクノロジーのもたらす変化を教育に取り入れ、過去22年間にわたり社会人向け教育プログラムの提供や、企業の戦略パートナーとしての活動をしてきました。
2019年現在、世界で7つの教育拠点を立ち上げ、5,000名以上の卒業生を輩出しています。また学校運営を行う一方で、コンサルティング事業も展開しており、約1,200社の企業に対しデジタル化推進の支援を行っています。

Hyper Islandのプログラムを修了した学生の98%が希望する企業に採用され、46の国・地域で活躍しています。
そしてHyper Islandで学んだ生徒たちは、採用先でも高度なスキルとコミュニケーション力を発揮して高い評価を得ています。こうしたデジタル人材を輩出することから「デジタル版ハーバード大学」と称されています。

One and Only Educational Method 唯一無二の教育手法

世の中は絶えず変化を続け、複雑さを増しているにもかかわらず、一方的かつ固定化された昔ながらの教育手法が踏襲され続けていることに対し、Hyper Islandの創立者は不満を抱いていました。
「では、どうすれば変化に対応できる人材を育てることができるのか?」
その問いへの答えがHyper Islandのユニークな教育手法に現れています。

Hyper Islandの特徴は何と言っても、その教育手法です。

 

「常勤講師」が存在しない

特定の分野に特化した常勤講師を採用した場合、デジタル社会ではその専門知識は3〜4年もすれば風化してしまいます。そのため、各分野の常勤講師はおかず、クラスを進行する「教育ファシリテーター」のみ在籍しています。

「教科書」という概念がない

Hyper Islandが提供する「常に変化する教育プログラム」において、出版された時点でその教科書は既に今の時代に対応したものではなくなります。ゆえに、教科書というものはHyper Islandには存在しません。
まさに今、社会が直面している課題をテーマに学生たちは学んでいます。

企業の第一線で活躍するエキスパートが講師

Hyper Islandのコンセプトは「learning-by-doing(実践しながら学ぶ)」です。
そのため、プログラム内容と講師を適切にマッチングすることが効果の高い教育と考えています。
時には企業のリアルな課題に取り組みプレゼンするなど、実践重視の教育手法で次世代人材を育成しています。

Discover new ways of learning and thinking 学びと思考の新しい手法を発見する

Hyper Islandの特徴は主に5つの要素で構成されています。

WHY, HOW & WHAT

取り組むべき課題やプロジェクトを成功させるためには、Why、How、Whatのすべてに焦点を当てる必要があります。
なぜそれをやっているのか?目的は何か?
目標に達するために何をしなければならないか?そして、どのように共創しあうか?を考えます。

EXPERIENCE BASED LEARNING

Hyper Islandの学習法は教科書がないため、実行しながら学んでいくスタイルです。
具体的な体験から始まり、 振り返りを行い 結論を導き出す。それに続き、新たなアクション、知識、スキルを積極的に試していきます。

FEEDBACK

フィードバックは自身の行動を理解するための強力なツールであり、他者との関係を改善してより効果的に共創するため のものです。

TEAM DEVELOPMENT & PERSONAL LEADERSHIP

スキルの高い優秀な人を集めること=優秀なチーム構築であるとは限りません。
チームビルディングとは、お互いを理解し信頼してこそ初めて、真の共創が起こるのです。
目先の課題にフォーカスするのではなく、イノベーションにフォーカスするチームを構築し、生徒たち自らが動かしていくチームを目指します。

REFLECTION

プログラムの過程でファシリテーターは常に「何を感じたか」「どうしたいのか」を問いかけています。自身が真に求めているゴールを知るには自分自身と向き合うことです。
学生たちは、授業を通して何度もリフレクション=内省を行い、意識や行動の変化を促します。

Hyper Islandのコミュニティ

Hyper Islandが輩出した人材はGoogle、Facebook、マイクロソフト、IDEO、Spotify、Airbnbなど世界の名だたるデジタル企業やスタートアップ企業で活躍しています。
Hyper Islandは単なるグローバルな教育機関ではなく、在校生・卒業生・社外講師・パートナー企業のエキスパート達で形成される豊かなコミュニティ集団でもあります。
Hyper Islandから広がるネットワークは非常に強固で、かつ刺激を与え合い、個人的な利益やビジネスのためだけでなく、世界全体にも有益なイノベーションやインパクトを生み出しています。

Hyper Islandとの運命的な出会い

2017年10月、初めてスウェーデンに降り立ち、Hyper Islandのストックホルム校を訪問した時のことを私は鮮明に覚えています。
元ソニーエリクソンの拠点があった広大な敷地のビルの一角にHyper Islandはありました。広々としたワンフロアにランダムに構成されたテーブルや椅子、クッション、ホワイトボードはあるもののいわゆる「教室的」なスペースが見当たりません。生徒たちは各々のスタイルでプログラムに取り組んでいました。
この時、初めて「先生なし・教科書なし」という教育手法を教えてもらいました。学校らしさが全くない、この北欧で生まれた新しい「教育」のあり方に感嘆するばかりでした。

その後、シンガポール校にも訪問する機会があり、幾度も対話を重ねてきた中で、最も印象に残った言葉をご紹介します。

「我々Hyper Islandは生徒たちや企業に対し『We don’t tell what to do( ◯◯しなさい)』と絶対に言いません。企業や社会のイノベーションは当事者自身が考え、答えを見つけ、推進していくものであって、それらは我々のものではないからです。我々の役割は、その答えを導き出していく手法や、イノベーションを起こすための意識改革、デジタルを取り込むためのツールなどをデザインし、生徒たちの成長をサポートしていくことです。」

Hyper Islandには社会人になり、様々な経験を積んだエキスパートたちであっても、改めて自身の目指すものを見つけるため、または目指すために身につけるべきスキルや知識を習得するために、再び学生としてHyper Islandに身を置き、学びに向き合っている生徒が多く在籍しています。
日本企業の教育が抱えている問題に対し、この教育手法を紹介することで、改めて学ぶことが真のイノベーションにつながることであると私は考えています。

最後に

こちらはHyper Islandが象徴的に掲げている言葉です。

 

In times of change the learners will inherit the world,

while the knowers will be beautifully prepared for a world that no longer exists.

 

学習する者が世界の後継者となる。
その一方ですでに学習をやめてしまった者は
自分の力を発揮する世界がもはや存在しないと
気付くことになるだろう。
– Eric Hoffer (哲学者:エリック・ホッファー)

まさに生涯を通して学ぶことの大切さを語っていますね。

次回はHyper Islandが日本で初めて行なったワークショップの様子をご紹介します。

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