ストーリーテリングはなぜブランド・オーセンティシティにとって重要なのか

ブランディングやマーケティング戦略においてしばしば語られるのが、「ストーリーテリング」です。ストーリーテリングとは、文字通り「物語を語ること」ですが、ブランディングにおいては、「物語を通してブランドの価値を伝えること」を意味します。市場が成熟している昨今では、似たような機能や価格帯の商品やサービスは溢れており、もはや機能面での差別化をはかることは難しくなっています。価格競争に巻き込まれないためには、ブランドのストーリーテリングを通して、顧客の共感や信頼を得ることが重要なのです。
 
ハイパーアイランドのデジタルマネジメント修士課程の学生であるVegard Bang Ritlandは、ストーリーテリングが、「ブランド・オーセンティシティ」にとって重要だと考えました。オーセンティシティとは、「信頼がおけること」「確実性」「真実性」「信憑性」などと訳されます。つまり、ブランド・オーセンティシティとは、そのブランドが「本物である」(=中身と行動が一致している)ことです。では、なぜストーリーテリングが、ブランド・オーセンティシティにとって重要なのでしょうか?Vegardの見解を紹介した記事を見ていきましょう。
 

ブランドはどのようにしてオーセンティシティを維持しつつ、顧客のニーズに応えることができるのでしょうか? ハイパーアイランドのデジタルマネジメント修士課程の学生であるVegard Bang Ritlandにとって、対外的コミュニケーションにおけるストーリーテリングの重要性が産業調査プロジェクト(IRP)の焦点でした。ここでは、どのようにしてブランドが顧客の注目を浴び、なおかつブランド自身に対して忠実であり続けるかについて明らかにしていきます。

力は消費者にある

研究によるとストーリーテリングは、今日、絶え間なく変化する時代において生き残りをかけて用いられています。ノルウェーのメディア・PR業界にバックグラウンドを持つVegardは、日々、物語やストーリーの創作に従事していました。しかしよく考えてみると、彼は「ストーリーテリングが自分の今後の人生にどう影響するのかということにまったく目を向けていなかった」と言います。
 
実際には、人生のかなりの部分になんらかのストーリーテリングが含まれていると気付き、このテーマについてのさらなる研究に掻き立てられました。このようにして彼はブランドストーリーとブランド・オーセンティシティの研究に対する仮説に至ったのです。
 
【仮説】
消費者にリーチする一番の方法はストーリーテリングを通してであると私は信じているが、それがどの程度のインパクトであるのかという点に興味がある。
 
デジタル化という革新性や新たな技術が力関係を変え、消費者に確たる力を与えました。ブランドは、注目を集め、他のブランドからの転換を勝ち取り、そして何よりもロイヤルティ(信頼、愛着心)を獲得することにかつてないほどに苦戦を強いられています。
 
IRPの概要を示す主な洞察をいくつか見てみましょう。ストーリーテリングの進化の意義を教えてくれるでしょう。
 

ストーリーは、私たちがどのように世界を理解するかということである―媒体は変わっても、中核となる概念は変わっていない。”

 

ブランディングやマーケティングにおいて、顧客との関係性を維持するためにストーリーテリングを活用しなければならない―新たな技術やソーシャルメディアがもたらした変化により、ストーリーテリングはブランドが今でも時代の先端にあると証明するツールとして極めて重要になった。”

 

デジタル化が競争の場を変えた―トランスメディア、ディープメディア、そして双方向のストーリーテリングにより、受け手がストーリーにさらに没頭するようになり、そして受け手自身が役割を開拓するようになった。”

 

ストーリーテリングは、内部で浸透され尽くしたときに、対外的に行うのがベストである―企業の目的が内部で野火のように広がったとき、外部コミュニケーションに対するポテンシャルが最大化される。”

 

オーセンティシティがブランディングやマーケティングの全てであるー今日の消費者にはしっかりとした力を持っているため、消費者とつながるブランド・オーセンティシティにとって、正直であることが100%ベストな方策なのである。”

ストーリーテリング専門家からの洞察

ハイパーアイランドでは、ストーリーテリングの最も優れた点は無料であることだと考えています。誰でも等しく用いることができるのです。しかし、文字どおりに受け取ってはいけません。Vegardは専門家に意見を求め、ストーリーテリングに密接に関わっている13人の業界専門家にインタビューしました。定めたトピックはビジネスにおけるストーリーテリングです。注目に値するものをいくつか引用します。
 
StoryCraftの創業者であるPhat X. Chiemは、ランジェリー大手のヴィクトリアズ・シークレットを例に挙げています。女性は男性の注目を引くためにドレスアップしなければならない、という時代遅れの感覚を持つ男性によって創業されましたが、今では女性のエンパワーメントと個性に価値を置いています。しかし、この変化の信憑性を示すため、彼らは誠実さを伝えなければなりません。
「ここで重要なのは、自分たちが本物であることを示すために、こうした変化を起こしていると粘り強く発信することである。それがマーケティングの策略ではなく、彼らが本物であることを示すことである。」(Chiem, 2021)
 
変化というテーマで続けると、ビジネスストーリーテリングの専門家で、Newthinking.toolsの創業者であるSteve Rawlingは、社会の変化によってブランドに潜む欠陥と過去の災難が明るみになったときの状況に言及しています。ブランド次第で、信頼性のあるコミュニケーションを通してこのことに対処できるのです。基本的に、オーセンティシティとは完璧を意味する必要はないのです。
「その変化から脱したときでさえ完璧にはならない。完璧というレベルに至るのではなく、新たなコンフォートゾーンに至るのである。」(Rawling, 2021)
 
SNASKの創業者であるFredrik Östは、ストーリーテリングの成功は、製品のコミュニケーションとブランド構築の組み合わせとバランスにおいて40対60の法則によると感じています。彼はちょっとした逸話を引き合いに出しています。
「実際の製品のマーケティングが誰かをデートに誘うことだとすると、ブランドストーリーとはイエスと言う理由である。」(Öst,2021)

ソーシャルメディアを自身の強みに使う

Vegardは、ソーシャルメディアの台頭がメディアの信頼性を喪失させたかもしれないと指摘しています。結果として、オーセンティシティが支持を得る鍵を握っているのです。彼はこの考えを裏付けるために、ジャーナリストであるOlivia Geganの見解を用いています。
 
「オーセンティシティ、つまり、ある物や人がその言葉に対して本物であり、独自であり、偽りがなく、真実であるという感覚は、重要な文化的・感情的資本を運ぶ品質です。あるブランドや性格がそのようなものを持っているように見えるなら、顧客からの信頼を勝ち取るのです。一方、ブランドがその逆で、偽物で、不誠実で、派生的なものであれば信頼を失います。」
 
ソーシャルメディアは、かつてないほど消費者に情報を提供する場となっています。しかし、それは火に油を注ぐものでもあり、答えではなく、多くの疑問を残す即断を可能にしているのです。
 
一方で、ブランドというのはソーシャルネットワークをフルに活用する機会があります。ブランドは、消費者との直接的なつながりを生み出すだけでなく、消費者をブランドの物語のヒーローにさせることもできるのです。
もう1人のインタビュイーであるFelicia Noelle Donkorは、さらに一歩踏み込み、このプロセスにおける次のステップに触れています。
 
「リツイート、コメント、シェア、投稿の保存、エンゲージメント、こういった継続が全てである。これらの小さな要素全てが、あなたが使うアプリのアルゴリズムを後押しするものなのだ。だからこそ、聴衆が共感できる物語を語ることが大切なのだ。聴衆のエンゲージメントが必要なのだ。」(Donkor, 2021)
 
ブランドは長期戦であることを忘れてはなりません。このような短期的なつながりを築き、相互関係の中でできるだけ透明性を持って心を開くことです。そのようにして、ブランドは真のオーセンティシティを示すことができるのです。
 
では、どうすればブランドは偽物にならずに済むのでしょうか? stories AGのPatrick Viertとの対話において、Vegardは思慮に富んだGUCCIの例を詳しく述べています。
「企業が次世代に語りかけ、変化する市況にしっかりと対応するために、GUCCIなどの企業は影の取締役会、つまり、非役員である社員が役員と共に戦略的構想を協議する場を設けました。」

デザイン思考は解決策か?

Vegardはブランドストーリーを考案するために、様々なツールや演習を、デザイン思考(解決策を見いだすユーザー中心のプロセス)のフレームワークに応用しました。彼はデザイン思考の活用について次のように述べて立証しています。
「デザイン思考はイノベーションにおいてよく見られるものであるが、誰かの物語を見つけるためにも転用することができる。しかし、これを正直なストーリーテリングを通じたオーセンティシティに到達するためのガイドと呼ぼう。」
それから彼は、ブランドが正直な言葉を決定するツールやアクティビティで構成されるこのガイドを作り出しました。そして、これこそブランドが土台とするものなのです。というのも、彼が記述したように、
「結局のところ、ストーリーテリングは優れている。しかし、それが正直でなければ何にもならないのである。」

デザイン思考を通じた正直で本物のストーリーテリング


フレームワークの内外から観察し、調査し、定義した活動を集約。レシピ本から好みのものを選ぶように活用できる。
図:基調講演で参加者に示した最初のスライド
出典:自身の図解
 
この考え方はスタートアップや、目的を失ってしまったのではないかと思われる広く認知されたブランドにとって理想的なものです。またブランドとコンセプト双方のレベルで用いることができ、どのように世の中にアイデアを伝えるかを決めるガイドとしてより活用されるべきものです。彼は、これは未完成ではあるが、完成品にはより大きな作業が含まれると強調しています。
 
どんな作業が含まれているのか?との質問を受けます。ここでおすすめの作業を挙げてみましょう。
 
作業:拮抗する勢力を定義する
概要:自分のブランドに拮抗するものとして定義するものは、ブランドとしての自分自身がその過程で直面する障害や課題を意味するものであり、自分自身を定義するものでもあります。このような課題は社会的なもの、競合、そして消費者関連のものかもしれません。自分の声に気づき、自分が信じるものに立脚することで、さらなる透明性につながっていきます。そして、ブランドとして自身が乗り越えるものがあるということが物語をより興味深く、正直にするのです。拮抗する勢力を形成し、それが対外的コミュニケーションの一部となるような問い掛けを行なってください。
 
最後に、Vegard自身の言葉を用いて締めくくります。
「1つはっきりしていることは、ブランドストーリーテリングはすっかり根付いている。だからこそ、ビジネスストーリーテリングの領域におけるさらなる研究が常に重要なのだ。」
 
※この記事は、原文『Why storytelling is the key to brand authenticity』を許可を得て翻訳、編集したものです。