受講者レポート Hyper Island 3-Days Master Class Digital Acceleration

今回は2019.01.21に配信した「イベントレポート Hyper Island 3-Days Master Class Digital Acceleration」に引き続いて、スウェーデンに本校を置く、デジタル・イノベーション・スクール「Hyper Island」が、日本で初めて行ったワークショップ・イベント『Hyper Island 3-Days Master Class Digital Acceleration』についてご紹介します。

過去約20年に及ぶデジタル・イノベーション教育によって、「デジタル版ハーバード大学」とも称されるまでに至った同社。『learning-by-doing(実践しながら学ぶ)』というユニークな教育メソッドのエッセンスが詰まった濃密な3日間について、実際に受講したTDSのコミュニケーション・プランナーがクラスの内容や Hyper Island の有用性についてお届けします。

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聞きかじりの知識では1mmも役に立たない

イベント初日となる2018年10月17日(水)に、芝浦の会場に集まった30名ほどの受講者たち。バックグラウンドは、事業会社・提案会社を問わず、企業経営者、事業開発マネージャー、デザイナー、エンジニア、プロデューサーなど多種多様……。そんな個性的で感度の高いメンバーと一緒に3日間の刺激的なワークを共にしました。

 

まず痛感させられたのは、デジタル文脈のバズワードを知っているだけでは、何の役にも立たないということです。私自身を振り返っても、広告・販促や開発のバズワードを通じてデジタルについて認知してきた部分が少なからずあったように思います。しかしながら、それは現象のアウトラインをなぞっていただけで、そのディティールやエッセンスについて本当の意味で自分ゴトとして理解や体感をしてはいないことに気づかされました。

 

冒頭でも述べましたが、「Hyper Island」の理念は『learning-by-doing(実践しながら学ぶ)』です。これは、言い換えると、自分たちの頭を使って思索を深め、実際に試して、そこで得られた示唆を共有することです。

それでは、この理念を特に象徴している3つのセッションについてご紹介しましょう。

① ビジネス・トランスフォーメーション:自動運転技術が影響を与える産業や職業


セッションで使用されたスライド

 

デジタル・トランスフォーメーションが、ビジネスにもトランスフォーメーションを促す。これは誰もが肌では感じているものの、意外としっかりと向き合うことができていないイシューのように思います。このセッションではいくつかの題材でディスカッションしたのですが、その中に「自動運転技術が影響を与える産業や職業」というテーマがありました。

 

ネタバレになってしまうので、あまり多くを語ることはできませんが、「自動車保険」というヒューマンエラー起因の事故減少が期待されることを睨んだ比較的想起しやすいものから、車内がひとつのショー空間・リラックス空間になる可能性を想定した「メディア・エンターテインメント産業」という一見、自動運転技術と結びつきにくいように思えるものまで、実に多くの産業や職業があることに気づきます。自動車産業にとっては、例えば影響を与える産業まで広げてビジネスモデルを構築することで大きな果実を得られる可能性がありますし、一方で他の産業であれば、既存ビジネスの前提を覆しかねない脅威になる恐れがあり、ビジネスそのものを変革していく必要に迫られるかもしれません(もちろん、ビジネスチャンスになる可能性もあります)。

 

デジタル・トランスフォーメーションとビジネス・トランスフォーメーションの親和性や相関性は、非常に広大で深淵なテーマであることは間違いありません。しかし、だからといって自社のケースに細かく落とし込むために膨大な時間をかけて一人で考え込むのではなく、多様な受講者と一緒にとにかくまずはいろいろな視点から考えてみることで次の気づきを生む。それが、「Hyper Island」の考え方といえます。

② JTBD(Job To Be Done):人は期待する効果を求めて行動する


iPodを題材としたJTBD

 

「破壊的イノベーション」の必要性が叫ばれて久しいですが、では実際に何をすれば良いか?について、体系的なアプローチを実践した経験のある人は少ないのではないでしょうか。このセッションでは、ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論(JTBD)」を元に、イノベーティブな商品・体験を開発するためのポイントや流れについて学びます。

 

「顧客は仕事を片づけるために製品やサービスを雇う」というJTBDの考え方に親しむことからセッションは始まりました。破壊的イノベーションを起こした企業が、機能面・感情面・社会面でどんな価値を提供することで、いかなる状況にある顧客のジョブを片付けたのかについて、グループで検討するのです。そして、それをジョブステートメントと呼ばれる宣言文に落とし込んでいきます。

 

しかし、「Hyper Island」の特徴は、ここで終わらないことにあります。作成したジョブステートメントから、さらに顧客が求めているジョブを深掘りして、その顧客のジョブを解決できるアプリについて、プロトタイピングツールを使ってその場で(!)開発させるのです。この一貫した実践主義とスピード感こそが、真骨頂といえるでしょう。

 


グループでジョブステートメントを起案する

③ テッカソン:「まず作ってみる」というマインドセット

2019.01.21の記事でも触れていますが、AI、VR、音声認識、ECといった8分野のデジタルツールを使って、二人一組となって90分で2つ(!)のプロトタイプを開発する「テッカソン」と呼ばれるセッションは強烈です。基本的な指示は「テッカソンカード」と呼ばれるカードに記載されていますが、この内容がすべて英語で記されており、実際に使用するツールもほぼすべてが海外のツールです。

 

「恥の文化」を持ち、「英語が苦手」な日本人にとって、このセッションは面食らった方も少なくなかったように思います。しかし、「まずやってみて、後から軌道修正する」、そして「デジタルツールは世界規模で日進月歩のため、英語で調べることに慣れる」というデジタルにおけるマインドセットを養う良い機会になりました(慣れるまでには少し時間はかかりそうですが……)。

 

また、このセッションをやり終えると、すでに開発というものがエンジニアの手を離れて、すべてのバリューチェーンの職種に解放されたような感覚になりました。これほどまでに簡単にプロトタイプを造れる環境が整い始めており、そのツールに直接触れることができるだけでも意義のあるセッションだと思います。

 


テッカソンカードを元にプロトタイピングを作成

多様な視点を持った受講者と一緒に、短期間で、“デジタルを浴びる”ことが糧となる

この3日間は改めて振り返っても、特別な体験でした。しかし同時に、『learning-by-doing(実践しながら学ぶ)』という理念が示す通り、実際に体験していない方に対して価値や熱量をリアルに伝えることの難しさやもどかしさも感じます。

それは本プログラムが「グループワークを通じた体験」と「個人によるリフレクション(内省)」のセットで構成されており、受講者によって持ち帰るモノが大きく異なることも影響していると思います。そして、そもそもこの講義は実務についてのHow toではないため、正解というものがありません。また、デジタルやテクノロジーというもの自体が手段であり、環境にすぎないということもあります。

では、「Hyper Island」の魅力とは一体何なのか?

一言でいえば、「さまざまな視点を持った受講生と一緒に、短期間で、デジタルのパワーや影響力を自らが浴びることができる」というのが、私が考えたひとつの結論です。思えば、我々はデジタルに関して、そのドラスティック(だと思われる)な変革力をリアルに語れるほど、経験を蓄積できていない場合がほとんどです。それにも関わらず、これまでの仕組みや競争ルールで形成してきた思考の延長線で、極端にユートピアやデストピアな未来について妄想しがちです。ですから、「Hyper Island」では、デジタル時代に必要な心構えやデジタルがもたらすさまざまな社会的・ビジネス的インパクトについて、実際に自らが “浴びるように体験”することを求めます。

それによって、これまでのアナログ的な思考や伝聞によって作り上げてきたデジタルに関する認識をアップデートするのです。これを受講者側のベネフィットに置き換えると、「デジタルが内包する癖のようなものや周囲にもたらす影響力を正しく主体的に把握・受容するためのマインドセットが構築されることで、自社が持つデジタルの可能性について健全に評価することができ、変革を主導するためのスタートラインに立てる」ということが言えると思います。

デジタルに使われずに、使う側に回れるか?

インターネットの普及から数十年。スマホの誕生やクラウドサービスの台頭などを通じて、私たちの事業環境や生活環境は目まぐるしくアップデートしています。デジタルテクノロジーは日々、高度化・複雑化・汎用化・フラット化を推し進めており、ビジネスモデル、バリューチェーン、ワークフローなど、あらゆるビジネス領域に大きな影響を与えています。そんな中では、人間側もデジタル時代に対応しやすいマインドセットで臨むことが何より重要でしょう。常識を疑い、安全圏から出る準備が整った方にとっては、「Hyper Island」は有益な存在だと言えるのではないでしょうか。

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