海外企業視察レポート #2 エマージングマーケット ジャカルタの独自経済圏 vol.1

高い経済成長が期待される国を指すエマージングマーケットとして注目度が高いインドネシア。

インフラ整備や住宅建設が至るところで行われ、日系企業も多く関わっています。

IT系ユニコーン企業が国内に4つ存在し、そのうちの1つである国内EC最大手のTokopedia(トコペディア)は現在中国、アメリカから1,100億円を超える資金調達を受け、日本からはソフトバンクグループも出資しています。インドネシアは世界からみても大きな成長が見込まれる市場と言えるでしょう。

ラマダンが明けた7月、私たちはジャカルタへ企業視察へ行ってきました。

今回のVol.1ではインドネシア(ジャカルタ)の社会課題から生まれた配車サービス事情をご紹介します。

ジャカルタ基礎情報

インドネシアの人口は約2億6900万人。国土は日本の約5倍、1万3000の島からなる多種族国家です。

公用語はインドネシア語で英語はあまり通じません。

国民の大半はマレー系ですが、約300ほどの種族が存在するため、第一言語は皆それぞれ違います。そのため驚くことに公用語といえどインドネシア語は第二言語として学校で習得します。

インドネシア語は誰でも喋れるように文法構造などが非常にやさしいため、どの種族の人も身につけやすい言語であるようです。

インドネシアの人口ボーナス期は2044年まで続き、平均年齢は29歳と若い労働力を備えていることもエマージングマーケットとして注目度が高い理由の1つです。

首都ジャカルタがあるジャワ島にはおよそ1億3700万人が居住しており、全国民の約88%、2億3000万人以上がイスラム教徒という世界最大のイスラム圏です。
ジャカルタは5つのエリアに分類され、企業の多くは中央ジャカルタにあり、南には富裕層が多く住んでいると言われています。

マレーシア発Grab v.s. インドネシア発GOJEK

世界的に有名なジャカルタの交通渋滞。5km進むために2時間かかるなんてことは珍しい話ではありません。

そんなジャカルタにもライドシェア・配車サービスは存在し、それらに伴いキャッシュレス決済が現在急速に広まっています。

インドネシアの配車サービス大手は、マレーシア発のGrab(グラブ)と地場のGOJEK(ゴジェック)です。

Grabの本社は現在シンガポールにありますが、開始当時はマレーシアにて展開していました。

またGrabは2018年にUberの東南アジア事業を買収し、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジアの8ヶ国でサービスを提供しており、そのうちの4ヶ国で首位を獲得している東南アジア有数のユニコーン企業です。

 

しかし、インドネシア国内で首位をとることはできていません。

その背景にはバイクタクシーの配車からスタートし、市民権を得たGOJEKの存在があるためです。

GOJEKの多角化戦略とパートナーシップ連携

インドネシアでバイクタクシーを利用する際、ユーザーはドライバーがいる場所まで赴く必要があり、利用料金も交渉しなければなりませんでした。また、ドライバーは勤務時間の大半が「客待ち」という状態が一般的でした。この事実に注目し、GOJEKはスタートしました。

2015年にアプリがリリースされ、現在GOJEKはバイク配車のみならず、タクシー配車、宅配、チケット予約などを提供するマルチサービスプラットフォームへと進化しています。

引用:GOJEK公式サイト

また、GOJEKはインドネシアのIT系ユニコーン企業であるTokopedia(トコペディア)ともデリバリー提携をし、交通事情の悪いインドネシアにおいて物流の面でも存在を示しています。

こうしたサービスの多角化と他企業とのパートナーシップ連携によりGOJEKはインドネシア国内のユーザーを獲得してきました。

2018年にはベトナムでサービスを開始し、今後シンガポール、タイ、フィリピンで展開する予定です。

緑のユニコーンたちを追いかける老舗 Blue Bird

ここまでユニコーン企業2社を取り上げてきましたが、実は現地で1番利用したのはBlue Bird(ブルーバード)というタクシーでした。

Blue Birdは1972年に創業しインドネシアで1番初めにメーター制を導入したタクシー会社です。

「ニューヨークが黄色、ロンドンが黒のタクシーであるならば、我々は青色である」と自社サイトでも提言しているように、賑やかなジャカルタの道を青く彩る象徴的な存在でした。

しかしここ10年、緑のヘルメット・ジャケットを目印にしたGrabやGOJEKの登場により安価で便利な方へとユーザーが流れてしまい厳しい状況に置かれていました。

Blue BirdのCEOであるプルノモ氏は「最大の混乱はテクノロジーではなく、価格競争である」とNIKKEI ASIAN REVIEWのインタビューで答えています。

 

GrabやGOJEKと違い、Blue Birdは会社が車を用意する必要があります。また、公共交通機関に分類されるため地方自治体が定めた料金形態に従わなければなりません。

一方でGrabやGOJEKは自家用車を使用するため、会社が車を用意する必要はありません。また、彼らはあくまでもアプリケーション会社であるため、規制の対象になりませんでした。このような理由からBlue Birdが「平等な競争の場」を求めてロビー活動を行っても、政府はインドネシア発のユニコーン企業の成長の妨げに繋がる規制をしくことに消極的であったと記事で語られています。

参照記事:Grab and Go-Jek face resurgent rival in Blue Bird(外部サイト)

 

しかし2018年、GrabやGOJEKにも規制が課されることが決定しました。

これにより、GOJEKの売上げが減少したことを記事は伝えていますが、問題となっているドライバーの低賃金にもメスが入ったと言えるでしょう。

 

2019年1月Blue Birdはインドネシアで初めて電気自動車の導入を始め、中古車販売、Blue Bird Friendプログラムの開始など、車両維持の負担を減らすと共に、ドライバーを各地で教育し自社に還元するようなエコシステムを構築しています。

実は1番捕まえやすいBlue Bird

配車タクシー問題を巡る問題は様々ありますが、私たちがBlue Birdを1番利用した理由は単純に捕まえやすかったからです。

Grab同様に、My Blue Birdというアプリから配車予約が可能なので、インストール後に決済情報の登録が終わればその場で使用することが可能です。

Grabは金曜の夜や休日など、需要が高まると通常より高い料金が表示されますが、Blue Birdは一定料金です。また、渋滞緩和のためにジャカルタの一部道路ではナンバー規制が実施されていますが、Blue Birdは公共交通機関のためこの対象にはならず遠回りすることなく目的地まで行くことが可能です。

加えてGrabよりBlue Birdの方が車両数が多いことが捕まえやすい理由の1つでしょう。

需要が高い時間帯はだいたい交通規制がかかっている時間帯でもあるので、場合によってはBlue Birdの方が速く安価に目的地まで行ける可能性があります。

インドネシアに行く際には選択肢の1つに入れてもいいのではないでしょうか。

独自の経済圏を持つインドネシア

今回インドネシアを訪れて感じたのは、他の東南アジアとは違う独自の経済圏があるということです。

配車サービスを例にとっても、人口が多いゆえに引き起こされる問題に対して自国のサービスが違うアプローチで解決を図っています。また内需が主軸のため外国依存度が低いことも感じました。

次回のvol.2 ではそんな独自経済圏を広げるインドネシアで急速に広がっている電子決済についてご紹介します。

 

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