海外企業視察レポート #1 マレーシア発 Food Techのスタートアップが食のエクスペリエンスを高め飲食業界に革命をもたらす

食品関連サービスにICT技術を組み合わせ、食の問題解決・イノベーションを目指すFood Tech。

Food Techが世界的に盛り上がりを見せている背景には、食の多様性、食の価値の再定義、またSDGs(持続可能な開発目標)の策定などが挙げられますが、テーマが“食”であることから市場規模が大きいことも理由の1つでしょう。

日本国内においてもオイシックス・ラ・大地がFood Tech専門の投資部門を設けさまざまなベンチャーに投資を行うなど、市場が活発になっています。

 

しかし一口にFood Techと言っても農業生産、流通、代替食・外食、調理器具などその領域は多岐にわたります。

外食の領域では、Uber Eatsのデリバリーサービスは身近なFood Techの1つと言えるでしょう。

 

今回は2019年3月、マレーシアに訪問した際に出会った、現地のスタートアップ企業が提供する食のエクスペリエンス向上を目的としたサービス“aliments(アリモン)”をご紹介します。

良い食事体験とは食品のクオリティだけではない

フランス語で「食べ物」を意味する“aliments”を提供しているのは主にアプリやソフトウェア開発を行っているNexstreamという会社内で誕生した、マレーシアを拠点とするスタートアップです。

alimentsは、スマートフォンのアプリからレストラン、ファストフード、コーヒーショップなどのメニューを事前にオーダーし、オンラインで決済。予定時間になったらオーダーした品を店舗で受け取るという、飲食店と顧客を繋ぐサービスです。

 

マレーシアの飲食業界は、人件費の高騰によりピーク時に十分なリソースが確保できておらず、機材導入価格が高いためワークフローも効率化できていません。さらに、食品コスト試算が粗く、売上よりも廃棄食品が多いなどといった理由から、どの飲食店も売上向上に苦戦しているという状況下にあります。

また、顧客側もオーダー時に起きる行列に並ぶことやオーダーミスなどにより時間を浪費してしまっているという問題を抱えています。

「食事の味には満足していても、サービスやオペレーションの質が悪いと経験価値も下がってしまう」というペインポイントに注目したスタートアップの開発チームは、alimentsのサービス開発をスタートさせました。


alimentsサイトより

お店と顧客、両方のUXを追求した3ステップ

一般的にレストランで料理をオーダーする際、通常下図に示しただけのステップが必要となります。

 

これだけのステップがalimentsを使用すると、わずか3ステップに簡略化することができます。


引用:alimentsサイトより

 

顧客はalimentsを使うことで事前オーダーから決済までをアプリ内で完結することができます。時間になったらオーダーした品を取りに行くだけになるため、支払いや行列に並ぶストレスから解放されます。

また店舗側はオーダーに対して効率よく準備ができるだけでなく、顧客データも取得できるメリットがあります。

 

現在、こうした事前オーダーシステムは他にもアメリカのスターバックス、オーストラリアのHey youが採用しています。マレーシアにおいても同様のサービスは他にも数社あるものの、「alimentsはカスタマー・エクスペリエンスを最優先している。他社は類似機能を採用しているだけなので、そういった意味で彼らは競合ではない」と開発チームのCTOであるジェイソン氏は述べていました。


ジェイソン氏:右から3番目

懐疑的だった初期導入

alimentsの導入メリットは、顧客側だけではなく店側にもあります。

初期の運用テストは会社が入居しているビルの1階にあるコーヒー店で行いましたが、当初そのコーヒー店側は導入に関して懐疑的だったようです。しかし3ヶ月経過した後、店舗の売上が上がっていることに気がついたと言います。

こうして導入店舗を徐々に増やしていくと同時に店舗と顧客双方の詳細データを獲得し、それぞれにフィードバックをもらいながらサービスの改変を行ってきました。

 

現在alimentsはコーヒー店以外にも導入されており、人件費最大70%減、売り上げ20%増、スタッフ依存からの脱却、ミスの減少、高い顧客満足度の獲得などを達成しています。

テスト運用を行ったコーヒー店にて実際にオーダーを体験。今回はお店のテーブルにあるQRコードからメニューを読み込んだ後にオーダーしましたが、事前オーダーはもちろん可能です。

多民族国家・人口が多い国だからこそ

マレーシアは多民族国家で、マレー系69%、中華系23%、インド系7%(※1)という人口構成になっています。また、国教であるイスラム教を信仰するマレー系は豚肉・アルコール飲料の摂取は禁忌です。

鶏肉は各民族が問題なく食べることができるため肉類のなかでは消費量が最も多く、マクドナルドよりケンタッキーの方が好まれるなど、食文化にも民族構成が色濃く反映されているという特徴があります。

人口ボーナス期も2044年まで継続すると言われ、交通渋滞は深刻な社会問題となっています。飲食店にも同様のことが起きていると言えるでしょう。

Food Techの広がりの理由の1つに食の多様性がありますが、こうした文化的背景を持つマレーシアにおいてalimentsの開発がスタートした理由は訪問してみて納得ができました。

 

食品関連サービスの問題解決を目指したり、地球環境保護や食の付加価値向上を目指したりと、さまざまな目標を持って企業やベンチャーはFood Techに取り組んでいます。

alimentsは食の付加価値向上のみならず、お店が抱える問題も解決しているサービスと言えるでしょう。

現在alimentsはマレーシアにフォーカスしている段階ですが、東京オリンピックが開催される2020年に多くの訪日外国人を迎える日本にとって、ポテンシャルがあるのではないかと感じます。

 

※1: 外務省 マレーシア基礎データより

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