通訳者が語るコミュニケーションをデザインする方法

dd postsを運営するTDSは2016年より北米・欧州・アジアに海外視察を重ね、現在は20社を超えるデザインファームとネットワークを構築しています。

 

今回は海外視察に通訳として同行している筆者の視点から、異なる文化や習慣、様々なミーティングやワークショップで体験した心を通わすコミュニケーションについてご紹介します。

スモールトーク(世間話)の効力と歓迎ムードの構築

会議が始まるやいなや、名刺を素早く交換し、PCをモニターにつないで、流れるようにパワポの資料を開き、つらつらと読む。「会議」に対してこのようなイメージがありませんか?

 

海外視察中にそのようなシチュエーションはありませんでした。

 

訪問した会社では世間話や歓迎の時間、お互いを知るための簡単な質問の応酬が最初に行われることがほとんどです。「いつ到着されたのですか?」「アクティビティは何かすでにしましたか?」などの世間話らしいものから、「もし好みのレストランがあれば、紹介しますよ!」など、パーソナルなおもてなしをしてくださる方もいます。時には個人の背景を共有し合うこともあります。

 

また、オフィスによってはお菓子や朝食・コーヒーが置いてあって、一緒に食べましょう、自由に食べてね!と勧めてくださる会社もあります。「Breaking bread together」(共にパンを分け与えあう)というキリスト教的な親愛・友愛を示す文化から来ていたり、アットホームな歓迎を表していたり、いくつか理由がありますが、要は、日本でいうところの「同じ釜の飯を食べる」ということと同じです。一体感が高まり、建設的なムード、協力的な雰囲気が醸し出されるので、参加者みんなで良い話をしようという心構えが自然と生まれます。

ストーリーテリングの重要性:「あなたはなんで来たの?」

もちろん、そのような温かいおもてなしばかりではありません。「So, what are you guys here for?」(で…来た目的は何ですか?)と着席した瞬間、単刀直入に聞かれたり、「30分しか時間が無いので」と事前にメールで通達されていたりと、多少、身構えるようなこともありました。しかし、失礼だとは思いませんでした。むしろこれは好機(何故私たちが来たのか、その背景をお伝えする絶好の機会)だからです。

 

ストーリーテリング、つまり、何故そのことを行っているのか(我々の場合は海外視察と、日本の『デザイン』を次のステージに進化させるというミッション)を共有して、何故その道のりで、あなた(視察先)に会う必要があるのか、学ぶ必要があるのか、それを訪問相手に伝えるようにします。

メタファー(比喩):例え話で繋がる

視察の意図や目的を伝えるに当たって、データ、事実、状況の共有や自身の強み、何故訪問先に魅力を感じているのかをお伝えするのは必ず行わなければならないことですが、例え話や比喩を活用してイメージを描写すると、訪問相手との「繋がり」が強く生まれることが多くなります。英語または通訳を介してコミュニケーションをとった際に、正確な言葉や通訳であっても、マインドセットの違いがあるので、真に心に響き、深く、100%理解していただけることは稀です。しかし、比喩を使うことによって感覚やイメージで理解をいただき相互の意図や目指す到達点が伝わったなと感じることが多々ありました。また、イメージもローカライズ、つまり相手の感覚に合わせて調整することが必要だという学びがありました。

 

例えば、米国のパートナーを訪問し、協業の可能性について会議を行っていた時に、「鍋を一緒に囲むような仲になりたい」という日本側の発言を通訳するシーンがありました。家族や親友のような、とても親密な協力関係を持ちたいという意図で発せられた言葉です。しかし鍋料理を一緒に囲むということは米国の一般家庭では稀で、中華街で火鍋を食べたりするなど外食のイメージがあるので、家庭行事を連想することはありません。そこで私は「サンクスギビング(感謝祭)で一緒にバーベキューを行うような、パートナーシップ関係を持ちたい」と意訳してお伝えしたところ、日本側の意図が伝わったようです。通訳の精度という観点では全く正確ではありませんが、何を伝えたいか、何を目的としているのか文脈を判断した上でコミュニケーションをとることが大事なのだと実感しました。

絵を描いたっていい!:ホワイトボードを使おう

また、無理に全てを言葉で伝える必要はありません。会議中にモニターで図やイラストを見せたり、立ち上がってジェスチャーを交えてプレゼンを行ったり…ホワイトボードを使わせてくれと言って、赤いマーカーと青いマーカーで書きまくり、考えをまとめたりなど…発言以外のコミュニケーションも多用しています。

 

考えが整理整頓される・強調されるなどのメリットがあるだけではなく、話が広がり、思いもしない良い結果が生まれる場合もあります(訪問先の方が、こちらがホワイトボードに描いた図やイラストに追加して描くなど、イラスト大会のように盛り上がることも…)。会議はバーリトゥード、なんでもありです。総合格闘技です。もちろん紳士的に、ルールを守り、尊重しながら行うのは大前提ですが、様々な方法・方向に工夫して、建設的な議論を行います。

外国人だからって全員が外向的ではない:雰囲気とエネルギー

上記の通り様々な表現方法や工夫をすることは素晴らしい効果を生みます。

しかし、反応を見て話したり、工夫すること、雰囲気に合わせて動くことはとても大事です。

場を読むこと、「空気」は日本人の専売特許ではありません。何人でも察することはします。しかし、ペースとやり方は国や会社、そして人によって異なります。

目的は明確に、話すトピックもクリアにするべきでしょう。しかし言うこと・言わないこと、やること・やらないこと、いつやるか、やるべきかの判断はしています。そして個々人の考え方や、やり方は違います。雰囲気と場のエネルギーを感じて合わせることが大事です。

 

日本語、または日本のマインドセットのままだと「無機質」になりがちなので、大事にしていることやトピックには情熱を持ち、端折るべきところは端折り、深く語るべきは語るというバリエーションを持つことは大切です。しかし、状況を読まずに総合格闘技を始めるのは適切ではありません。高いエネルギーレベルは素晴らしいですが、タイミングを見ずに、高め過ぎるのは好まれません。程度の差はありますが、「過ぎたるは及ばざるが如し」はグローバルです。

ジョークとメリハリ:ユーモラスとクリティカル

また、海外の会議に参加していて、いつも楽しいなと感じる理由は、ジョークを交えて、笑いの要素を入れる方が多いことです。スモールトーク時や会議中に、ちょっとしたユーモアを交える方がいます。自己紹介に笑いを入れて一体感が高まるのを促進したり、煮詰まった会議・批評的な雰囲気を和らげるために差し込んだりすると、メリハリが生まれ、良いディスカッションになります(反応に困ることがあったり、自虐であまり笑えないこともあったりもするのですが…それも含めてとてもユーモラスです)。また、掛け合いのように、ジョークをジョークで返して生まれた時の連帯感は不思議と心地が良いです。

海外ワークショップ・イベントに参加した時の姿勢について

もっとも違いを感じるのは、イベントやワークショップの参加者の姿勢です。日本人からしたら「そんなことも聞くの?調べればすぐ出るじゃないか。」ということも、多くの参加者が積極的に、どんどん聞いています。時間とお金を投資して参加して、「聞く」「試す」場なのだから、疑問を遠慮なく投げかけているというスタンスで、質問をする様子が多く見受けられました。ワークショップやイベントの運営側によると「質問・議論こそに価値がある」と捉えているようです。

振り返ってみて

海外視察を通して、様々な考え方・やり方・スタンスを持つ国・組織・人を、見る機会を得ました。その中で一番大きな学びとして得たことは、このような機会を大事にして、最大限活かすことです。少ないチャンスを大事にして、相手をリスペクトして、お互いの文化を尊重し、互いに歩み寄りジャズのように即興で楽しみながら交流して、成長とビジネスの種を得ることが海外視察の醍醐味だと感じます。

 

日本の感覚、商習慣や強みは持ちつつも、海外の良いところを柔軟に取り入れて、シチュエーション・場面に合わせて表現していくことも、「コミュニケーションデザイン」であるのではないかと感じます。

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