海外デザインファーム紹介 #2 TOPP (Malmö, Sweden)

dd postsを運営するTDSは2016年より北米・欧州を中心に海外視察を重ね、現在は20社を超えるデザインファームとネットワークを構築しています。そのうちの数社とはパートナーシップ契約を結び、双方の得意分野で協業しながら現在、ビジネスに取り組んでいます。
今回はその1社である、北欧スウェーデンのデザイン・イノベーションカンパニー「TOPP(トップ)」をご紹介します。

元Blackberryのエンジニアたちが考えるデザインとテクノロジーの関係

TOPPの本社はコペンハーゲンの隣町、スウェーデン第三の都市Malmö(マルメ)にあります。新しいデザインとテクノロジーを使ってクライアントをサポートしたいという思いから、元Blackberryのエンジニアやデザイナーを含む7名で2013年にスタートしました。

現在はストックホルムとアメリカのサンフランシスコにもオフィスがあり、UXリサーチャー、UXデザイナー、エンジニア、ストラテジストなど約30名が所属しています。

クライアントは自動車や、エネルギー、ホームセキュリティ、医療、キッチン用品など幅広い業界にあり、そのエリアはヨーロッパ、北米、アジアにまたがります。

他にもTOPPは大学でデザインやテクノロジーに関する講義やワークショップを行うなど、教育にも力を入れています。

Think & Do

TOPPの全てのプロジェクトに共通していることはThink & Doを繰り返し行うことです。
企画やデザイン(Think)に長い時間を費やしすぎるのではなく、実際に動くこと(Do)を大切にしています。彼らはプロジェクトに「8時間ルール」というものを設け、必ず8時間でアイデアをタンジブルな(目に見える、触ることができる)ものに落とし込むということを行っています。それは紙で作られたラフなものでも、複雑なIoT製品やウェアラブルデバイスでも構いません。とにかく考えることから実行へのプロセスを速く行うこと、そして早い段階でアイデアを形にするプロトタイプを制作することを行っています。

では、なぜ早くプロトタイプを制作することが大切なのでしょうか。

爆速でプロトタイプを制作するメリット

TOPPがプロジェクトの早い段階でプロトタイプを制作することが重要だと考える理由は、主に3つあります。

1. 顧客理解

プロトタイプを実際に触ってもらうことで、問題や課題を早く把握することができます。

2. ソリューションの決定

どのようなソリューションが一番適しているのかなど、ベストなソリューションが分かりやすくなります。

3. コミュニケーション・早期フィードバック

全てが出来上がった後に別の担当者の一言でひっくり返されてしまうこともプロジェクトでは起こります。しかし、プロトタイプの段階でフィードバックをもらうことにより、このような事態を回避できるのです。そしてなにより、プロトタイプを見てもらうことや体験をしてもらうことは、プレゼン資料を作成するよりも遥かに分かりやすく、説得力があります。

 

プロトタイプを早い段階で体験してもらい、ユーザーやクライアントから多くのフィードバックを得る。これがプロトタイプが有効な最大の理由です。

経験を繋ぐ麺「Noodl(ヌードル)」

TOPPのプロトタイプ制作とThink & Doのプロセスを支えているのが「Noodl(ヌードル)」です。

NoodlはTOPPが独自で開発したプロトタイプ制作のためのフリーソフトウェアで、現在1万人のユーザーがいます。データやAPIとの連携が可能であること、さまざまなデバイスと連携できることが主な特徴で、モバイルアプリからIoT製品、車のダッシュボードまでさまざまなプロトタイプ制作が可能になります。

Noodlはリアルなデータを使ったアプリやサービス・プロダクトのアイデアを、実際に動くプロトタイプに素早く落とし込むことができるツールです。

Noodlを実際に使用した事例をいくつか紹介します。

Work1:Samsung Gear S2 ウェアラブル スマートウォッチ

サムスンのデザインパートナーでもあるTOPPは、サムスンのスマートウォッチに搭載されているプラットフォーム開発のUXデザインの支援を行いました。
インタラクションとUIフレームの決定、ビジュアルとガイドラインの作成をサムスンのデザイナーやエンジニアと共に進めました。このプロジェクトでもNoodlは使用され、ハードウェアが完成する前にアプリランチャーのプロトタイプを何度も制作しました。(下図左)
このように物を作る前にアイデアを形にすることで、単なるUIデザインにとどまらず、スマートウォッチの操作やそれにより得られる体験まで包括的なUXデザインを設計することができます。

Work2:ストックホルム公共交通機関 公式app

ストックホルムの主な公共交通機関である、地下鉄、トラム、バス、鉄道、水上バスを一括管理しているのがSL社です。SL社は日本でいうJRのような存在であり、毎日80万人以上に及ぶ通勤・通学者や、旅行者を支えているいわば都市部のインフラです。公共交通機関を利用する全ての人が使えるアプリの制作を担当したのがTOPPです。交通機関とは人々をある場所から異なる場所へと運ぶものです。
だからこそ、人が中心のデザインでなくてはなりません。さらに、ユーザーには子供や高齢者、障がいを持つ人々、旅行者なども当然含まれるため、「全ての人を置き去りにしない」という言葉をこのプロジェクトのコアに設定しました。
まずTOPPはユーザーが何を求めているかを知るためリサーチを開始しました。特に視覚障がい者や小さな子供がいる家族、到着したばかりの旅行者などを中心にリサーチをかけ、ユーザビリティ・アクセシビリティにおける課題をクリアにしていきました。
そして既存サービスも活用し、運行情報から乗り換え情報、チケット購入までを一括で行えるパッケージにしました。こうして2016年5月にローンチしたSL 公式アプリは、わずか数週間で約100万ダウンロードという驚異的な数字を記録したのです。

これからのデザイナーとNoodl


参照:経済産業省・特許庁 産業競争⼒とデザインを考える研究会 「デザイン経営」宣言

時代の変化に伴いデザイナーに求められていることも変化してきています。
「デザイン」という言葉はビジネス・サービス・エクスペリエンスを「設計する」といった広義の意味で使われるようになっただけでなく、IoT製品やスマートスピーカーなどの誕生により、データやAI、ボイステクノロジーなど、扱うマテリアルにも変化が出てきました。デザイナーにはデザインとテクノロジーの両方を理解する力が必要となり、新しいマテリアルをユーザーにとって有益なエクスペリエンスにいかに落とし込めるかが重要なポイントになってきていると感じます。
先ほど紹介したようにNoodlはデータととても相性がいいツールなので、TOPPはいち早くこの流れに対応し早期段階でプロダクトやサービスの検証を実現しています。
また開発ワークフローにNoodlを取り入れることでエンジニア、デザイナー、リサーチャーが同時にプロジェクトのスタートを切ることができ、アジャイル型で開発を進めていくことができます。
Noodlによって変化する開発ワークフローの話や職種のスキルブレンドが可能になる話については、また別の機会に詳しく触れたいと思います。

北欧にヒントあり

TOPPの本社オフィスがあるマルメという街は、石畳の両脇にヨーロッパらしい暖色系の建物が並び、騎馬警官が闊歩するようなクラシックな街並みで、ストックホルムと比較してとてものどかな街でした。東京からマルメへの直行便はなく、ヨーロッパの主要都市で乗り継ぐかお隣のコペンハーゲンからアクセスするルートが主流です。そんなマルメから現在定期的に日本に来日しているのがTOPPのデザインテクノロジストであるマティアス氏です。マティアス氏は現在、我々のチームと一緒にNoodlを使った開発をしています。
昨年12月には様々な職種を集めてNoodlを使ったHackathonを開催。東京ミッドタウンにて行われたUXイベントでは、ファウンダーの1人であるアンダース氏も登壇し、デジタルの観点からUXについてお話いただきました。

 

2018年1月 UXイベントレポートはこちら

ヨーロッパの日本から学ぶこと

世界幸福度ランキング、男女平等ランキングの上位に常にランクインし、福祉先進国として世界的に有名なスウェーデン。今回の視察で初めて訪れましたが、その理由を実感することができたので少し紹介します。
まず視察に訪れたデザインファームは、環境を考えたサステナブルな取り組みや、世の中を良くするための活動をしていたりと、デザインの力を活かした社会貢献活動に積極的に取り組んでいる企業が多くありました。
またスウェーデンに住む男性の日本人デザイナーの方とお話をしたところ、育児休暇を2ヶ月ほど取得されたそうです。女性もフルタイムで働くことが当たり前のスウェーデンにおいては、当然の制度かもしれません。また午後4時くらいにはほとんどの人が帰宅するという話も伺いました。我々日本人からすると驚くべき習慣ではありますが、国のシステムとしてライフワークバランスがしっかり組まれていることを実感しました。
スウェーデンはヨーロッパの日本と例えられることがあります。実際に訪れてみると確かにパーソナリティは日本人に近いものを感じられました。
近年は世界でキャッシュレス化が進んでいる国の1つとしてよく耳にします。文化的背景の違いや法律などの理由により、海外のシステムを日本にそのままインストールすることは困難である場合が多いです。日本とスウェーデンにおいても例外ではありません。しかし、消費税やキャッシュレス、教育、働き方など、日本をアップデートするヒントを探すことはできるのではないかと感じました。

 

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